軽度認知障害(MCI)早期発見に向けたAI・デジタル認知テストの新展開

個人的に病気の早期発見が気になっているので、それをテクノロジーでなんとかできないのかとまとめてみた。

軽度認知障害(MCI)とは

概要

総務省が公表しているこちらのドキュメントを要約する。

  • 物忘れが増えるが日常生活はほぼ自立
  • 家族が「あれ?」と気づく程度
  • 主症状:記憶・注意・計画力の低下
  • 例:70歳の田中さん、歯医者の予約を何度も確認
  • 原因:アルツハイマー前段階、脳血管障害など
  • 進行:3分の1改善、3分の1維持、残りが認知症へ
  • 予防:有酸素運動、地中海食、社会交流、短い昼寝
  • 対策:血圧・糖尿管理、脳を刺激する趣味

いわゆる「認知症」との違いは?

加齢による”もの忘れ” MCI(軽度認知障害) 認知症
原因 脳の生理的な老化 脳の神経細胞の変性や脱落、脳血管の障害 脳の神経細胞の変性や脱落、脳血管の障害
もの忘れ 体験したことの一部分を忘れる(ヒントがあれば思い出す) 体験したことの一部分を忘れる(ヒントがあれば思い出すことが多い) 中等度の認知症では体験したことをまるごと忘れる
症状の進行 あまり進行しない 認知症に進行する場合もあれば、健常に戻る場合もある だんだん進行する
判断力 低下しない 少し低下する 低下する
自覚 忘れっぽいことを自覚している もの忘れの自覚はあることが多い 忘れたことの自覚が薄れる
日常生活 支障はない 支障はあるが、何らかの工夫や支援があれば自立できる 中等度の認知症では支障があり、自立できない

引用:https://theotol.soudan-e65.com/basic/dementia

MCI早期発見の光明

元ネタ:こちら

軽度認知障害(MCI)の早期発見は、進行予防や新治療への対応に極めて重要だ(もちろん、本件に限ったことではないが)。米国では2025年4月29日、Alzheimer’s Drug Discovery Foundation(ADDF)がAI搭載のデジタル認知評価ツール「MoCA Solo」に出資すると発表した。MoCA Soloは従来のペン&ペーパー式「モントリオール認知テスト(MoCA = Montreal Cognitive Assessment)」をタブレット端末で再現し、AI音声アバターの案内で最小限の監督下で検査が完結する仕組みだ。MoCA Soloの最大の狙いは、MCIスクリーニングを専門医以外の一次医療レベルで手軽に実施可能にすることである。

ADDFによれば、近年承認されたアルツハイマー病治療薬(「ドナネマブAZBT(製品名:キスンラ)」や「レカネマブ(製品名:レケンビ)」)の成功を受け、バイオマーカー検査と認知機能検査を組み合わせる「包括的診断」が必須になっている。血液バイオマーカーの普及が見込まれる中、MoCA Soloのような標準化・自動化されたデジタル認知テストは患者の認知状態を補完的に評価し、MCIの段階で専門医に紹介すべき対象を選別できるという。グリッドゲーツ財団のニランジャン・ボース氏も「新薬が登場する今、信頼性の高い初期検出ツールが必要だ。MoCAテストのデジタル化は一次医療機関の医師に早期発見を促し、専門医紹介のボトルネックを減らす」と指摘している。MoCAテスト自体は感度90%(*1)・特異度87%(*2)でMCIを検出し得る高精度ツールとして評価されていて、その自動版が全国展開すれば検査体制の門戸が大きく広がる。

*1:もし病気の人が100人いたら、この検査は90人をちゃんと「MCIである」と判定できる(が、逆に言うと10人は見落とす可能性がある)。
*2:もし病気でない人が100人いたら、この検査は87人を正しく「健康です」と判断できる(が、13人は間違って「病気かも」と出てしまう可能性がある)。

デジタル認知テスト以外の新技術動向

こうした動きに呼応し、国内外で多様な技術がMCI検出に活用され始めている。例えば米ミズーリ大学では、深度カメラと力センサーを組み合わせた携帯型デバイスを開発し、歩行や片脚立ちなどの運動時データを機械学習で分析する手法で、被験者の83%のMCIを高精度に分類できることが報告された(ソース)。またボストン大学の研究グループは、音声にAI処理を施して認知機能低下を検出する枠組みを発表している。元データにピッチシフトやノイズ付加などの匿名化処理を加えつつ、認知機能を表す音響特徴を抽出し、正常・MCI・認知症を識別するモデルを構築したもので、匿名化しても62~63%の精度で分類可能だった(ソース)。さらに、嗅覚やタッピング運動なども注目テーマであり、自宅での嗅覚検査や指タッピング運動解析によるMCIスクリーニング実験が進行中である(例:日本長寿研が指タッピング検査で高精度分類に成功(ソース))。これらはいずれも従来の心理検査や画像検査と異なり、ユーザー負担を軽減しつつMCI検出の早期化・普及化を図る試みである。

所感

  • スクリーニングの門戸拡大: ADDFによるMoCA Soloへの投資は、専門医から地域診療所・健康診断センターへの認知機能検査の移管を加速させる。新薬時代には「病気になる前のMCI」を拾うことが不可欠であり、デジタル技術はその有力な手段となる。日本でも既に筑波大発ベンチャー・MCBIが血液バイオマーカーによるMCIリスク判定検査サービス「MCIスクリーニング検査プラス」を展開しており(同社は2025年4月28日に予防サービス「MCBIメンバーズ」を開始した(ソース))、世界的に「スクリーニング検査+生活介入」の全体最適化が模索されている。

  • 二つの柱の融合: 認知機能検査とバイオマーカー検査は相補的であり、デジタルテストの導入は後者と組み合わせることで効果を高めるのではと考える。血液検査で「病理変化」の早期指標が得られても、実際の認知機能レベル評価がなければ治療の適応判断や介入効果の判定は不十分だ。その点、AI評価付きのMoCA Soloのような標準化された認知検査は、データ重視の診断に“機能面での定量的判断”を付与し、精密医療のパズルの一片を埋める役割を果たす。

  • 人材・体制の課題: 日本も含めMCI検出率は低く(*3)、多くの高齢者が未診断のままだ。専門医だけでは対処しきれないため、一次医療従事者の力量強化だけでなく、デジタルツール導入が急務と考える。実際、ADDFではプライマリケア医(いわゆるかかりつけ医)が困ったときにまず行くところ、の役割を担うことを重視しており、MoCA Soloを含む診断パイプラインの整備は医師教育や診療ガイドライン更新とも深く関連する。
    (*3):2023年にアメリカのUSC Dornsife Collegeが公表した研究では、800万人のMCI患者のうち90%以上が未診断であることが明らかになっている(ソース

So What

  • デジタル検査の実装推進: 医療機関や健診センターはMoCA SoloのようなAI認知検査ツール導入の可能性を検討するのがよいのではないだろうか。特に初期診療での簡易検査を普及させ、「スクリーニング→専門医フォロー」の流れを構築することで、MCI発見の裾野が広がる。健康寿命延伸・認知症問題対策として政府・自治体も検討会や補助枠整備など支援策が検討できると良い。

  • 異分野連携の強化: 認知機能の自動評価には医工連携が鍵となる。大学・企業・保険者の協働により、センサー・AI・ICTを組み合わせた検査システムの実用化を目指すべき。例えばバイオマーカーを持つMCBIとセンサー系スタートアップ、AI開発者が連携すれば、先述の血液検査にデジタル認知データを統合した先進サービス開発が可能となる。

  • 専門人材育成・ガイドライン整備: MCIの早期発見は医師だけでなく看護師や介護職にも関係する。デジタル検査ツールを活用した早期スクリーニング方法の教育・研修を充実させ、認定基準や報酬制度へ反映させる必要がある。たとえば定期健診に認知機能簡易検査を組み込む基準づくりや、地域ケアにおけるAI検査システム導入支援策が考えられる。

  • プライバシーと信頼性の確保: AIを用いた音声・画像解析やオンライン検査の導入にあたっては、個人情報保護や誤診防止に注意を払うこと。前述の音声AIフレームワークが示すように、データを匿名化しつつ機能診断を行う工夫が必要であり、透明性のあるアルゴリズム開発・検証が求められる。

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