リテールメディアが動画広告と融合する新潮流 – 2025年最新動向と考察

リテールメディア広告が次フェーズへ?GoogleはCostcoなどの購買データをYouTube動画広告と統合、TubiはAmazon DSPと連携しCTVでも実売上シグナルを活用。販促とブランド訴求を一気通貫で最適化する“フルファネル”戦略が現実化し、ROI測定とプライバシー配慮も進化。リテールメディア×動画の融合トレンドを解説。購買シグナルで視聴者を絞り、CTVでも即時の売上計測が可能。上位ファネルと下位ファネルを横断し、広告費の無駄を削減、LTV最大化を狙える。日本市場でも楽天・Yahoo!や地上波局のFAST参入で同様の統合が加速するか。

 

近年急成長しているリテールメディア分野で、新たな潮流が加速している。2025年5月初旬、米Googleは自社の広告プラットフォーム上でリテールメディアのデータを動画広告(YouTube)に統合活用する取り組みを発表した(ソース)。これは、小売事業者が持つ購買データや顧客データをオンライン動画広告のターゲティングや計測に活かすもので、従来「販促・下位ファネル」の文脈で語られてきたリテールメディアと、「プレミアム動画」という上位ファネル寄りのチャネルとの融合を象徴する動きであると考える。各国の広告主がリテールメディアネットワークに投入する予算は増え続けており、米国では2027年にその市場規模が850億ドルを超える見通しとも報じられている。今回のGoogleの発表は、この巨大市場で培われた購買データを従来とは異なるチャネルで活用し、フルファネルで統合的なマーケティング効果を狙う試みだといえる。

GoogleによるリテールメディアデータのYouTube統合

Googleが5月上旬の業界イベント「NewFronts」で発表したのは、同社のDSPである「Display & Video 360(DV360)」において、Costco(コストコ)やIntuitRegal Cinemas、ユナイテッド航空など複数企業のリテールメディアネットワークと提携し、取得したデータをYouTube動画広告のキャンペーンに活用できるようにする新プログラムである。これにより、小売企業側は自社の持つ購買データを活用してもなお他社(競合)に生データを渡すことなく、YouTube上で自分たちの製品に興味がある顕在・潜在の両消費者にリーチできるメリットがある。一方、広告主(ブランド側)にとっては、小売現場における消費者の購買行動データを動画広告のターゲティングや効果測定に組み込むことで、より的確かつシンプルなキャンペーン運用が可能になると期待される。実際Googleは「ブランド広告とショッパーマーケティング(販促)キャンペーンをシームレスに一体化できるツールになる」と本取り組みの利点を強調している。つまり広告主は、これまで分断されがちだった認知目的の広告と購買誘導目的の広告を、同一プラットフォーム上で統合的に展開できるようになるというわけだ。

今回パートナーとして名を連ねた企業には、Costcoのような小売業だけでなく金融(Intuit)や航空(ユナイテッド航空)といった異業種も含まれている点は注目に値する。これらの企業は自社顧客基盤を活用した広告事業(いわゆるリテールメディア)を展開しており、Googleはそのデータを取り込む形でプログラムを開始する。このように、リテールメディアネットワークの概念自体が従来の「小売業者」に留まらず広がってきていることも、業界の変化を象徴している。

リテールメディアとCTVの融合が業界のトレンドに

Googleの試みは目新しいが、これと軌を一にする業界全体のトレンドも確認できる。例えばFox傘下の動画配信サービスTubiは、自社の広告在庫をAmazonのDSPと接続し、Amazonが持つ小売データやオーディエンス情報と連携させるパートナーシップを発表した。この提携により、Tubiのストリーミング動画広告枠においてAmazonの持つ購買インサイトやオーディエンスデータを活用した高度なターゲティングが可能となる。実際、Amazon側の担当者は「双方のシグナル(データ)をマッチさせ、Amazonのオーディエンス洞察とTubiのコンテンツを組み合わせることで、キャンペーン目標に合致した一段上の知見を提供できる」と述べており、CTV(コネクテッドTV)領域にパフォーマンス広告の知見を持ち込む意図が伺える。これはまさにGoogleの目指す方向と一致しており、リテールメディアと動画ストリーミング広告の融合が業界全体の潮流となりつつあることを裏付けている。

さらに、この潮流は数年前から兆しがあった。小売大手のWalmartは2024年にテレビメーカーのVizioを買収し、自社広告事業(Walmart Connect)のCTV/ストリーミング強化を図った(ソース)。AmazonがFire TVというハードウェアと膨大なユーザーデータで広告主から支持を集めている状況に対抗し、Walmartもテレビのスクリーンをリテールメディアの延長線上に位置付けた動きと考えられる。実際、業界専門メディアも「成熟したリテールメディアネットワーク各社はCTVやストリーミングを次の競争フロンティアと捉えている」と指摘しており、リテールメディアの収益源が従来のサイト内検索連動広告やバナー広告といった下位ファネル中心から、より上位ファネルの動画・CTV領域へと拡大しつつあることがわかる。

以上のように、リテールメディアと他媒体の垣根が低くなり、データドリブンな広告キャンペーンをあらゆる接点で融合させる動きが加速している。

考察

これらの動きが示すのは、マーケティングにおける「ファネル」の垣根がなくなっているという大きな潮流である。従来、認知目的のブランド広告と購買直前の販促施策は分けて考えられ、広告出稿も別々のチャネル・指標で最適化されるのが常識だった。しかし、Googleは今回のNewFrontsにおいて「マーケティングファネルの時代は終わった」とまで宣言し、消費者行動は「ストリーミング視聴、スクロール(ソーシャル閲覧)、検索、ショッピング」が同時並行的に進行する重層的なものだと位置付けた(ソース)。まさにこの認識が根底にあるからこそ、購買データを持つリテールメディアリーチ規模の大きい動画プラットフォームを結び付け、一体化したマーケティング施策を実現しようとしているのではなかろうか。

広告主にとっては、もはや「上位ファネルvs下位ファネル」と予算や組織を縦割りにするのではなく、フルファネルで統合効果を最大化する戦略が求められる。リテールメディアの持つ購買データは、店内やECサイト上だけで完結させるには惜しいほど価値が高く、それを他のメディア(動画やCTV、さらには従来型マス広告など)でも活用することで、広告の投資対効果(ROI)をより明確にし、無駄の少ない配分が可能になる。小売業者側も、自社のデータとメディアを囲い込む発想から、他社プラットフォームとうまく連携しデータの収益化機会を拡大していく発想への転換点に差しかかっていると言えよう。

各ステークホルダーの取りうるアクション

  • TO広告主(ブランド側): 上記潮流を踏まえ、広告主はブランド広告と販促広告の統合設計を本格的に検討すべきである。例えば、日本においてもEC事業者や小売チェーンが持つ購買データを活用し、動画広告やCTV広告と連動させたキャンペーンを試行する価値は大きい。自社のマーケティング組織も従来のブランド担当とトレード担当の連携を深め、共通KPIで評価する体制へ移行することが望ましい。

  • TO小売事業者(リテーラー): 小売企業は、自社のリテールメディアネットワークを自社サイトやアプリの枠を超えて拡張する戦略を検討すべきだ。他メディア企業やプラットフォーマーとの提携(例:動画配信事業者とのデータ共有、DSP連携)や、技術投資による広告商品開発(例:店頭デジタルサイネージとオンライン動画広告の連携など)によって、広告主に提供できる価値を高められる。
  • TO業界全体: リテールメディアと他チャネルの融合が進むほど、統一的な計測指標(参考)やプライバシー配慮など業界横断の課題も重要性を増す。広告主はオンラインとオフライン、サイト内とサイト外を横断した効果測定フレームを構築し、重複や漏れのない アトリビューション設計を行う必要がある。また、小売企業とプラットフォーム間でデータを連携する際は、個人情報を保護しつつ安全に活用するクリーンルーム技術などの活用も不可欠だ。業界団体による標準化の動きにも注目しつつ、データドリブンマーケティングのエコシステムを各社が協調して築いていくことが求められる。

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