iPhoneのSafariで、広告が表示されないまま落札だけが成立していた。そんな事態が2026年9月から起きています。
2026年9月14日にリリースされたiOS 27は、サイト横断のトラッキングに使われる一部のアドテク企業のドメインを、予告なく遮断しました。The Trade Desk(TTD)の広告配信ドメインまで巻き込んだため、2026年10月上旬のAdvertising Week New Yorkは、この話題が非公式の場で語られ続けた週になりました。
関連記事
・RedditのアドテクM&A戦略から学ぶパブリッシャーができること
・Criteo、ChatGPT広告パイロットに初のアドテクパートナーとして参入 ・・・AI広告のプログラマティック化が始まる?
・AppleのAIウェアラブル3製品とBCI(脳内チップ)戦略 ・・・どこへ向かうのか
目次
AdExchanger(2026年9月29日)によると、iOS 27は、IDのマッチングでサイト横断の追跡を行うデータブローカーのドメインを無条件にブロックするという、Appleの既存方針を広げたものです。2026年9月にブロックリストへ加わったと報じられたのは次の6社。
| 企業・仕組み | 報道で判明している対象ドメイン | 主な役割 |
|---|---|---|
| The Trade Desk | adsrvr.org | DSPの広告リクエストと配信 |
| Unified ID 2.0 | uidapi.com | 共通ID |
| LiveRamp | pippio.com(RampIDの発行元) | IDグラフ |
| Permutive | permutive.com | パブリッシャー向けデータ |
| ID5 | 報道に記載なし | 共通ID |
| Audigent(Experian傘下) | 報道に記載なし | オーディエンスデータ |
影響はSafariだけの話ではない。AppleはiPhoneとiPadで動くすべてのブラウザにWebKitの使用を義務づけているため、ChromeやFirefoxも同じ遮断を受けます(Digiday、2026年10月7日)。
TTDのシニアディレクター・オブ・エンジニアリングであるIan Meyers氏は、WebKitの不具合管理システムBugzillaに「adsrvr.orgはThe Trade Deskの中核となる広告リクエスト・配信ドメインであり、ID用ではない」と書き込みました。
AdExchanger(2026年10月8日)の分析では、Appleが狙ったのはCookie同期用のmatch.adsrvr.orgだったとみられます。Safariはドメイン単位でブロックするため、同じドメインにある広告配信まで止まった、という見立てです。その後、WebKitでプライバシーとアドテクを担当するJohn Wilander氏がMeyers氏に、adsrvr.orgをリストから外したiOS 27.2のベータ版を伝えました。ただし一般ユーザーに届くのは早くても2026年10月末の見込みで、それまでiOS 27の端末ではTTDの広告は表示されません。
より大きな問題は、これから先にある。AdExchanger(2026年10月2日)は2人の関係者の話として、当初のリストは破棄され、数百社のCDP、アドテク、マーテック、データ販売事業者、IDグラフ運営企業を含むリストに置き換わったと報じました。リストは非公開のGitHubリポジトリにあり、外部からは見えない状態です。
WebKitには、端末が定期的に参照するリモートのリストで遮断対象を更新できるコードも追加されました。これまではiOSのアップデートが必要でしたが、仕組みが動き出せばAppleはいつでも対象を増やせます。Digiday(2026年10月7日)によると、このコードはまだ出荷されていない。
では、遮断はすでに広がっているのか。Digidayが結果を確認した70以上のアドテクドメインのテストでは、ブロックされていたのは最初の数社だけでした。ZetaのLiveIntent、Publicis傘下のLotame、YahooのConnectIDは問題なく通っています。
Apple自身は沈黙したままです。2026年9月17日にWebKitが公開したSafari 27.0の新機能紹介にもブロックリストの記載はなく、AppleはAdExchangerとDigidayの取材に応じていません。2017年のIntelligent Tracking Prevention(ITP)や2021年のApp Tracking Transparency(ATT)では、Appleは事前にガイダンスを出し、開発者会議で説明していました(AdExchangerの取材先による)。今回は、取引先のパブリッシャーから広告が表示されなくなった理由を聞かれて初めて気づいた企業が多かったといいます。
| iOS 27ブロックリスト問題の経緯 | |
| 2026-09-14 09-17 | iOS 27リリース。UID2・LiveRamp・ID5・Permutive・Audigent・TTDのドメインを予告なく遮断(AdExchanger、9/29報道) WebKitがSafari 27.0の新機能紹介を公開。ブロックリストの記載なし(WebKit、9/17) |
| 2026-09-29 | AdExchanger報道。iOS 27がTTDの広告配信ドメインadsrvr.orgまで遮断していたと判明 |
| 2026-10-02 | AdExchanger報道。関係者2人の話として、当初リストは数百社のCDP・アドテク・マーテック企業を含む非公開リストに置き換わったと判明 |
| 2026-10-07 10-08 | Digiday報道。Advertising Week New Yorkで非公式にこの件が話題に(10/7) AdExchanger報道。WebKitのJohn Wilander氏がiOS 27.2ベータでadsrvr.orgを除外したとTTDに伝えたと判明(10/8) |
| 2026年10月末 (早くても) | iOS 27.2正式版への反映見込み。TTDの広告配信が再開される見込み(AdExchanger・Digiday) |
| 日付は各メディアの報道日。出典:AdExchanger(2026年9月29日・10月2日・10月8日)、Digiday(2026年10月7日)、WebKit(2026年9月17日) | |
パブリッシャー向けに広告販売を支援するAditudeは、顧客のデータをDigiday(2026年10月12日)に示しました。
| Aditudeが示した顧客データ:Safariとその影響 | ||
| Safariの比重 | ||
| 表示広告(インプレッション) | 11.7% | |
| 広告収益 | 11.4% | |
| iOS 27更新後の影響 | ||
| eCPM(更新済み読者) | -10.5% | |
| iOS 27への更新率 | 約8% | |
| 全体の収益への影響 | 約1% | |
| 指標ごとに意味が異なる(シェア・変化率・比率)。棒の長さは数値の大きさのみを示す。出典:Digiday(2026年10月12日)、Aditudeが示した顧客データ | ||
数字は小さく見えますが、iOS 27の普及に比例して影響は大きくなります。Safariのユーザーはウェブで最も価値の高い読者層の一つであり、IDを失うと広告主に読者像を示せなくなるとDigidayは指摘しています。
広告主の側にも問題が出た。AdExchangerの取材に応じた代理店の担当者2人によると、TTDを使う顧客の落札ログには、iOS 27向けに落札したのに明らかに表示されていない広告が含まれていました。返金を受けられるかは、パブリッシャー、SSP、DSP、広告主の間の契約次第。
計測への影響も大きい。LiveRampやUID2を使ったチャネル横断のマッチングが止まるため、ストリーミング広告とモバイル・ウェブの接触をつなぐ分析が難しくなります。年間で最も広告費が動く第4四半期の初めに起きたことも、関係者の不安を大きくしています。
ブロックされた企業は、急いで仕組みを変え始めた。
もっとも、移行は簡単ではない。ファーストパーティ型では、ベンダーが扱えるのは顧客が許可したデータに限られ、ウェブ全体でIDをつなぐ従来のビジネスは成り立ちにくくなります。
ATTは、ユーザーに追跡の許可を求めるというルールが公開されていた。今回のブロックリストは、基準も対象も公開されず、将来は予告なく更新される可能性があります。Index ExchangeのCEO、Andrew Casale氏は、TTDの配信ドメインが外されたことについて「復旧なのか、それとも大きな誤りを認めたのか」とDigidayに語っています。
筆者は、収益の数字よりもこの不透明さのほうが重いと見ている。Appleは自社でも広告事業を持っており、匿名のパブリッシャー幹部はSafariでの広告を難しくする動きはAppleの広告事業に有利に働くとDigidayに述べました。基準が見えない以上、取引先のベンダーが明日リストに載る可能性を前提に計画するしかありません。
日本のパブリッシャーと広告主が今できることは何か。筆者は次の4つを挙げたい。
IDを前提にしたウェブ広告の仕組みが、Appleの一存で止まりうる。iOS 27はその現実をはっきり示しました。