AIスクレイピング規制法案に米媒体社300社、Googleは支払い2制度で先手

2026年10月15日、Googleは「News AIパイロット」の参加媒体が世界で400を超えたと公式ブログで発表しました。CNN、Axios、Financial Times、Forbesが新たに加わり、Googleは参加媒体にコンテンツの対価を払うと明言しています。

その2週間前の2026年9月29日には、Condé NastやHearstなど300社を超える米国の媒体社幹部がワシントンに集まり、AIの無断スクレイピングを規制する連邦法案を議員に働きかけました。規制で守る動きと、提携で稼ぐ動き。この2つは、同じ市場をつくるための表と裏です。

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米メディア300社が後押しする「Stealth Bot Prohibition Act」とは

正体を隠してサイトを巡回するボットを連邦法で禁止する法案です。法案番号はH.R. 9915で、2026年7月23日にフロリダ州のLaurel Lee下院議員が、ノースカロライナ州のValerie Foushee議員、フロリダ州のGus Bilirakis議員とともに提出し、下院エネルギー・商業委員会に付託されました。

法案が「ステルスボット」と定めるのは、次のどちらかに当てはまるボットです。

  • 正確なuser-agent文字列などで自分の正体を名乗らない
  • 取得したページを何に使うのか(検索インデックス、AIの学習、ファインチューニング、RAGなど)を、アクセス時にサイト運営者が読める形で開示しない

違反すると連邦取引委員会(FTC)が民事制裁金を請求でき、上限は1件あたり5万3,000ドル。州の司法長官も住民に代わって提訴できます。施行は成立から180日後。ニューヨーク州では2026年6月に類似の州法が議会で可決されています。

300社がワシントンに集まった理由

業界団体News/Media Allianceが毎年行っている議会訪問が、2026年は規模を倍にして開かれました。Condé NastのRoger Lynch CEO、Hearst MagazinesのDebi Chirichella社長、USA Today CoのMike Reed CEO、Seattle TimesのAlan Fisco CEOらが参加し、上下院の議員やスタッフと面会しました。翌日には議員と媒体社向けのプログラムも開かれています。

背景にあるのは、ボットの量そのものです。Digidayが引くCloudflareのデータでは、ボットはすでにインターネット全体のトラフィックの60%超を占めます。TollBitの最新レポートによると、2026年上半期に同社が分析した9,870億回超のサイト訪問のうち、220億回超がAIボットによるスクレイピングでした。AIボット訪問と人間の訪問の比率は、2025年第1四半期の約1対200から第4四半期には1対31まで上がっています。

News/Media AllianceのDanielle Coffey CEOは、この法案を「目的のための手段」と呼びました。ボットが名乗れば媒体社はブロックできる。ブロックできれば、AI企業はライセンス契約を結ぶしかなくなる。法案は、その市場が成り立つための下地だという考え方です。業界団体側の法案については、2026年2月の「IABが「AI Accountability for Publishers Act」を発表 ── AIスクレイピングからパブリッシャーを守る画期的法案の全容」も合わせて読むと、今回の法案がどこを絞ったかが分かります。

Googleは媒体社に何を払っているのか?

Googleは2026年10月時点で、性質の異なる2つの制度で媒体社に金を払っています。1つはGoogle News向けにコンテンツ権を買う「News AIパイロット」、もう1つはAI回答への貢献度に応じて払う「AI Contribution Pilot」です。

項目 News AIパイロット AI Contribution Pilot
何に払うか Google News向けの拡張コンテンツ権 Gemini・AI Overviews・AIモードの回答への貢献
使われる場所 Google Newsの媒体ページの記事概要、音声ブリーフィング AI回答の生成(回答を裏づける素材として)
規模 400媒体超(2026年10月15日時点) 約100社(MediaPost報道。Digidayは「少なくとも数十社」)
名前が出ている媒体 CNN、Axios、Financial Times、Forbes、Texas Tribuneなど 非公開
金額 非公開 非公開。Search Consoleに月額が表示される
主な批判 契約条件が不透明 算定が「ブラックボックス」、少額

News AIパイロット: 1か月で200から400へ

2026年9月14日時点でGoogleは参加媒体を「200超」と説明していました。それが2026年10月15日には「400超」です。1か月で倍増した計算になります。Googleは「参加媒体に、新しいAI機能を開発するための拡張コンテンツの提供と利用の対価を払う」と書いていますが、金額も契約期間も明かしていません。

CNNにとっては、Paramount SkydanceによるWarner Bros. Discovery買収完了後の最初の提携です。CNNのSam Felix上級副社長は、ReutersにGoogleの生成AIが情報の発見方法を変えたと述べ、そのツールを使って新しいオーディエンスとの接点を探ると説明しました。

英国のReachも2026年10月16日、Googleとの契約を今後のLLM提携のひな形と位置づけ、同時にOpenAIには停止通告書を送ったとDigidayが報じています。契約するGoogleと、契約しないOpenAI。媒体社の対応は分かれ始めました。

AI Contribution Pilot: 月額が出るが、算定は見えない

こちらはDigidayが2026年9月14日に報じた制度です。参加すると、Search Consoleに「AI contribution」という項目が増え、その月の受取額が表示されます。Googleが「その記事がAI回答に有意に貢献した」と判断したときだけ払う仕組みで、何をもって貢献とするかの説明はありません。参加者の1人はDigidayに「かなりブラックボックスだ」と語っています。

金額の幅は大きいようです。The Informationの報道をMediaPostが引く形で、早くから参加した1社は年100万ドル超、数か月前に参加した1社は5万〜6万ドル、小さなサイトは数か月で1,000ドル未満と伝えられています。Digidayの取材では、提示額が低すぎて参加を決めかねている媒体社もありました。

規制と支払いは同じ市場の表と裏

Google自身はステルスボットではありません。Googlebotは名乗ってクロールしています。問題は、媒体社AI連合SPURのDavid Buttle氏が指摘するとおり、検索に載せるための許可とAIに使うための許可が抱き合わせになっている点です。Buttle氏はDigidayに、Googleは許可を得て使っているが、その許可は「強制的に引き出されている」と述べています。

同氏はAI Contribution Pilotを「使った分だけ払う世界が来たときのヘッジ」とも評しました。Madison and WallのLuke Stillman氏も、この種の成果連動契約は法的リスクと規制リスクを安く下げる手段だと見ています。

規制とGoogleの支払い、半年間の動き(2026年6月〜10月)
2026年6月 ◆ ニューヨーク州で、正体を隠すボットを規制する類似の州法が議会で可決
2026年7月23日 ◆ 連邦法案H.R. 9915「Stealth Bot Prohibition Act」が下院に提出される
2026年9月 ■ 14日: GoogleのAI Contribution Pilotと参加媒体「200超」をDigidayが報道
◆ 29日: 媒体社300社超がワシントンに集まり、連邦法案の支持を議員に要請
2026年10月 ■ 15日: GoogleがNews AIパイロット参加媒体「400超」を公式発表
■ 16日: ReachがGoogleとの契約を今後のひな形と位置づけ、OpenAIには停止通告
凡例: ◆ 規制の動き ■ Googleの支払い制度の動き/出典: Digiday(2026-09-29, 2026-09-14, 2026-10-16)、Google公式ブログ(2026-10-15)、H.R. 9915法案全文 / U.S. Government Publishing Office(2026-07-23)

筆者の見方は、Buttle氏に近い。400媒体という数字は市場の成立を示すものではなく、価格表のない相対取引が400件あるという意味でしかありません。金額は非公開、算定はGoogleの裁量、参加媒体は入れ替え可能。それでも参加する媒体社の「外で待つよりは中に入る」という判断は理解できます。中小媒体に交渉力はなく、検索からの流入は戻らないからです。

一方で、法案の実効性には疑問も残ります。1件5万3,000ドルの制裁金は大手AI企業には軽い。ただ、Buttle氏が言うように、AI企業の多くは媒体社ではなくスクレイピング代行業者に金を払っています。住居用IPを使って人のふりをする業者には、FTCの提訴権と6年の時効は効くでしょう。法案の本当の狙いは、代行業者経由の迂回路を塞いで、AI企業を媒体社との直接契約に向かわせることにあります。

日本の媒体社がいま確認すること

法案は委員会に付託された段階で、2026年内の成立は見込めないというのが筆者の予想です。ただ、ニューヨーク州法が先に動いており、州単位の規制は増えるでしょう。

Googleの2つの制度は、どちらも米国限定とは書かれていません。News AIパイロットの参加媒体はもともと「世界で」400超で、Reachのような英国媒体も入っています。日本の媒体社がいま確認できるのは次の3点です。

  1. Search ConsoleのAI performance report。Googleは2026年8月からAI検索面での表示回数を見せ始めました。自社コンテンツがAI回答にどれだけ使われているかを、まず数字で把握しておく。
    1. URL: https://search.google.com/search-console/performance/search-analytics/ai?~~~
  2. ボットのアクセスログ。名乗っているボットと名乗っていないボットの比率を出しておけば、規制が動いたときにブロックと許可の方針をすぐ決められます。
  3. 相対契約の判断軸。金額が非公開のまま提示が来たとき、参加を決める基準を先に持っておく。Stillman氏の言う「稼げるうちに稼いで、広告に依存しない事業へ回す」という考え方は、日本でもそのまま使えます。

まとめ

  • 2026年9月29日、米国の媒体社300社超がワシントンでStealth Bot Prohibition Act(H.R. 9915)の支持を議員に求めた。法案は正体と用途を名乗らないボットを禁じ、FTCが1件最大5万3,000ドルの制裁金を請求できる
  • 2026年10月15日、GoogleはNews AIパイロットの参加媒体が400を超えたと発表。CNNやAxiosが加わったが、金額は非公開
  • 別制度のAI Contribution Pilotは約100社に成果連動で払うが、算定は不透明で金額は年100万ドル超から数か月で1,000ドル未満まで開きがある
  • 規制はボットを名乗らせて市場の下地をつくり、Googleの支払いはその市場が来たときのヘッジ。両方を同じ構図で読むと、媒体社が次に取るべき交渉の位置が見えてくる

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