AppleがSafari追跡遮断の理由を説明。ファーストパーティ型IDも対象に

2026年10月19日、AppleのWebKitチームが公式ブログで「Blocking Identity Resolution Infrastructure」を公開しました。iOS 27のSafariがアドテク企業のドメインを遮断した理由を、Apple自身が初めて説明した文書です。

対象はメールアドレスからIDを作る第三者の仕組みで、IDベンダーがファーストパーティ型に移っても遮断は解けないと読める内容でした。パブリッシャーにとっては、iPhoneだけでなくMacのSafari経由の広告収益にも関わる話です。

2026年9月のブロックリストそのものと初期の収益影響は、iOS 27でAppleがアドテクの追跡を遮断したことを解説した前回の記事で整理しました。今回はAppleの説明で新しくわかったことに絞ります。

Appleのトラッキング対策の推移
2017年 SafariのIntelligent Tracking Prevention(ITP)導入
2021年 App Tracking Transparency(ATT)導入
2026年9月 iOS 27のSafariがアドテク企業のドメインを遮断
2026年10月19日 WebKitブログが遮断の理由を公式に説明
出典: 2017年・2021年の影響はDigiday(2026-10-20)、2026年9月のブロックリストは前回記事、2026年10月19日はWebKitブログ「Blocking Identity Resolution Infrastructure」(2026-10-19)

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Appleが言う「アイデンティティ解決」とは何か

ログインやメルマガ登録の画面でメールアドレスを受け取り、そこから追跡用のIDを作ってサイトに返す第三者の仕組みのことです。WebKitチームは、これをCookieの代わりに生まれた追跡手法と位置づけ、ブロックの理由にしています。

ブログによると、流れは次のとおりです。ユーザーがメールアドレスを入力すると、サイト運営者ではない第三者がそれを自社のサーバーに送り、メールアドレスにひもづいたIDを発行します。IDはサイト側に保存され、閲覧履歴のプロファイル作りやサイトをまたいだ広告配信に使われる。ログアウトしてもメルマガを解約しても、第三者の手元にあるIDとメールアドレスは消えません。

Appleが説明する「アイデンティティ解決」の流れ
ユーザーがメールアドレスを入力
↓
サイト運営者ではない第三者が自社サーバーへ送信
↓
メールアドレスにひもづいたIDを発行
↓
IDをサイト側に保存
↓
閲覧履歴のプロファイル作り・サイトをまたいだ広告配信
ログアウト・メルマガ解約後も、第三者の手元にあるIDとメールアドレスは消えない
出典: WebKitブログ「Blocking Identity Resolution Infrastructure」(2026-10-19)

WebKitチームが問題にしているのは、メールアドレスの性質です。多くの人が何年も同じアドレスを使い、スマートフォンでもPCでも入力します。サイト横断だけでなく端末横断の追跡にもつながるため、Cookieより振り払いにくいというのがAppleの見方です。

ユーザーには、明示的に同意しない限り、追跡されない権利がある。
WebKitブログ(2026年10月19日)より筆者訳

なお、Appleについては「AppleのAIウェアラブル3製品とBCI(脳内チップ)戦略 ・・・どこへ向かうのか」でも取り上げていますので、併せてご覧ください。

ブログで明らかになった4つのポイント

前回の記事の時点では、遮断の基準は報道と推測で語られていました。ブログで確定したのは次の4点です。

論点 ブログの記述
対象OS iOS、iPadOS、macOS、visionOSの27系のSafariとWebKit
遮断の単位 ドメイン単位。リクエストの形を変えても回避できない
対象外 サイト運営者が自社ユーザー向けに行うパーソナライズ
ファーストパーティ型のIDグラフ 1社のデータに限っても、仲介する第三者が照合を担うなら追跡にあたる

いちばん重いのは4つ目でしょう。

AdExchanger(2026年10月20日)は、LiveRampなどのベンダーが顧客ごとのデータに閉じたファーストパーティ型の仕組みへ移り始めていると指摘したうえで、ブログはその移行さえ不十分だと明言していると分析しています。WebKitチームの説明では、データが1社分でも、仲介役の第三者はサイト横断・端末横断・企業横断の情報を持ち、照合や配信先の選定を担える。それは個々のサイトが単独では持てない追跡能力だ、という理屈です。

macOSとvisionOSが含まれる点も見落とせません。Digiday(2026年10月20日)も、遮断がiPhoneとiPadにとどまらずMacとVision Proに及ぶことをブログが確認したと伝えています。デスクトップのSafari経由の在庫も、OSを更新した利用者から順に影響を受けることになります。

新ドメインへの切り替えは一時しのぎ

AdExchanger(2026年10月20日)によると、最初に遮断されたThe Trade Desk、LiveRamp、ExperianのAudigent、ID5、Permutiveは、遮断されていない新しいドメインをすぐに用意しました。

The Trade DeskはPrebidのGitHub上で、配信ドメインadsrvr.orgが遮断された場合の予備としてTTDCDN.orgを設定しています。もっとも、Permutiveの戦略に詳しい関係者は、この方法を一時しのぎで解決策ではないと話しています。

DecryptAds創業者のZach Edwards氏は、AdExchangerのポッドキャスト(2026年10月23日)で、これをいたちごっこにたとえました。猫(Apple)からはネズミの動きがほぼすべて見えている、という言い方です。今は使える回避策があっても、Appleに遮断できないものはないと同氏は見ています。

The Trade Deskの扱いは、報道によって食い違う。AdExchanger(2026年10月20日)は同社を遮断された企業に挙げています。一方、Digiday(2026年10月20日)は、事情に詳しい人物の話として、広告配信サーバーは誤って巻き込まれたもので、その後は通信できる状態に戻ったと報じました。UID2が対象に含まれる点は両誌で一致しています。

Appleの説明が残した空白

Digiday(2026年10月20日)は、ブログが答えていない点を挙げています。企業名を1社も挙げていないこと、リストに載る基準と外れる方法を示していないことです。同誌の独自テストでは、確認したアドテクのドメインの多くはまだ読み込めたといいます。ただ、ブログは今後も「既定で」追跡を防ぎ続けると書いており、対象が今のまま止まる保証はありません。

広告業界がAppleの動機を疑う理由として、Digidayは過去の数字を並べています。

年 Appleの施策 業界への影響(Digidayの記述)
2017年 SafariのIntelligent Tracking Prevention Criteoが第4四半期のRevenue ex-TACで最大10%の打撃を投資家に警告
2021年 App Tracking Transparency Metaは2022年の損失を約100億ドルと試算
同じ時期 同上 アプリインストール広告市場でのAppleのシェアが17%から58%に(FTが報じたBranchのデータ)
2026年10月 Safariのアイデンティティ解決遮断 Apple Ads関連の求人が86件(うちニューヨーク17件)
アプリインストール広告市場でのAppleのシェア(ATT前後)
ATT導入前
17%
(FT報道のBranchデータ)
ATT導入後
58%
(同上)
出典: Digiday(2026-10-20)が引用した、FTが報じたBranchのデータ(アプリインストール広告市場でのAppleのシェア)

Apple自身の広告事業は伸びています。Digiday(2026年10月8日)によると、AppleはSearch AdsをApple Adsに改称し、App Storeの検索結果の広告枠を増やし、マップでも広告を売り始めました。広告事業を含むサービス部門の売上は、2026年6月期の四半期に過去最高の307億ドルに達しています。

筆者の見方:サーバーサイド移行は時間稼ぎにとどまる

業界の対応策として注目されているのが、IAB Tech LabのTrusted Serverのように、広告の呼び出しをブラウザからパブリッシャーのサーバーへ移す方法だ。Digiday(2026年10月8日)によると、Aditudeの提供するPrebid Serverも、ブラウザの外からID5やUID2、LiveRampのAPIにつなぐことでアドレサビリティを保とうとしています。

筆者は、これで逃げ切れるとは考えていない。Appleが示した基準は通信の経路ではなく、サイトや端末をまたぐデータを第三者が照合できるかどうかです。

サーバーの裏側で同じIDベンダーにメールアドレスを渡せば、仕組みとしてはブログが問題視した「仲介役の第三者」そのものになります。今はSafariから見えないので遮断されないだけで、Appleが規約やOS側の別の手段で対処してくる余地は残ります。サーバーサイド移行は、ブラウザ側の遮断を避ける時間稼ぎと捉えるのが現実的でしょう。

もう1つの見立てとして、IDの価値はメールアドレスを集める規模から同意の取り方へ移ると見ている。Edwards氏の話を紹介したAdExchangerも、アドテクは同意とより安全なID方式に本腰を入れるべきだとまとめています。

Appleがブログで対象外と明言したのは、サイト運営者が自社ユーザー向けに行うパーソナライズでした。自社の会員データを自社の中で使う部分は、少なくとも現時点の基準では守られます。

パブリッシャーと広告主が今やること

  1. パブリッシャーの収益担当は、Safari経由の在庫をiOS 27とmacOS 27の利用者に分けてeCPMを追う。デスクトップのSafariも観測対象に入れる
  2. パブリッシャーのアドテク担当は、ページ上のタグを洗い出し、メールアドレスを第三者へ送っているスクリプトを特定する。ベンダーには遮断の状況と、新ドメインへの切り替えの有無を確認する
  3. 広告主と代理店は、メールアドレス由来のIDでのターゲティングがSafariで効かなくなる前提で、Safari向けの配信を文脈ターゲティングや自社データ中心の設計に切り替える準備をする
  4. サーバーサイド移行を検討する場合は、IDベンダーへのデータの渡し方まで含めて、Appleの基準に照らして説明できるかを先に確かめる

まとめ

  • 2026年10月19日、WebKitチームがブログで遮断の理由を説明した。対象はメールアドレスからIDを作る第三者のアイデンティティ解決の仕組み
  • 遮断はiOS、iPadOS、macOS、visionOSの27系に及び、ドメイン単位で行われる
  • データを1社分に閉じたファーストパーティ型のIDグラフでも、照合を担う第三者は追跡にあたるとAppleは明言した
  • 企業名、リストの基準、外れる方法は示されていない
  • 新ドメインやサーバーサイド移行は当面の回避策で、Appleの基準そのものからは逃れられない

Appleはルールの理屈を公開しましたが、リストの中身はまだ見せていません。理屈がわかった以上、自社のデータの流れをその基準で点検するところから始めたいところです。

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参考記事

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