AIスロップは新しいMFAか 2,116のAIレシピサイトに大手ブランドの広告

2026年10月20日、米AdExchangerは、AIが量産したレシピサイト2,116件がプログラマティック広告で収益を上げていたとする調査を報じました。調べたのは広告サプライチェーンの調査会社DecryptAdsで、Fortune 500企業を含む大手ブランドの広告がこれらのサイトに出ていたといいます。オープンウェブで運用型広告を買っている広告主にとっては、自社の予算の一部がこうしたサイトに流れている可能性がある、という話です。

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AIスロップとは何か

AIスロップ(AI slop)は、人の手がほとんど入らず、独自性も読者にとっての価値もないまま、広告収益のためだけにAIで大量生産されたコンテンツを指します。業界団体TAGとANA、Fiduciaが2026年7月28日に公表した分析で、この定義が業界の共通認識としてまとまりつつあります。

TAGの分析が線を引いているのは「品質」であり、「AIを使ったかどうか」ではありません。人が編集して独自の視点を足した記事や、試合結果・決算のAI要約は、AIスロップに含めていません。インタビューに応じた検証ベンダーのなかにも、「AI生成コンテンツ」そのものをスロップと定義したところはなかったそうです。

MFA(Made for Advertising、広告収益のために作られたサイト)との違いは何か。中身の作り方は違っても、広告を詰め込んで稼ぐ構造は同じです。TAGの分析では、AIスロップと判定された在庫の88%がMFAとしても判定されていました。

DecryptAdsが見つけた2,116のレシピサイト

AdExchangerの報道によると、DecryptAdsの調査は次の手順で進みました。

  1. ロシア、中国、キプロス、トルコ、UAEなど、DecryptAdsが「リスクのある国・地域」と分類する場所に拠点を置くアドテク企業約300社を選ぶ
  2. 各サイトのads.txtとSSPのsellers.jsonを突き合わせ、DNSやSSL証明書、Google Analyticsのデータも使って、300社と取引しているパブリッシャーを洗い出す
  3. 食べ物に関するキーワードで絞り込み、AI生成のアバターで著者を偽っているレシピサイト400件を手作業で確かめる
  4. この400件から190以上の技術的な痕跡を取り出し、同じ運営者のサイトを広げて探す

最終的に見つかったのが2,116サイトです。サイトの「著者紹介」ページには、AIで作った顔写真やストック画像、実在のシェフの盗用写真が並び、女優エミリー・ブラントの画像を加工したものまであったといいます。ページには広告枠が何重にも重なり、ビューアビリティ(広告が画面に表示された割合)を稼ぐ作りでした。運営者のSNSアカウントの多くはモロッコとアルジェリアに結びついていた、とDecryptAds共同創業者のザック・エドワーズ氏は話しています。

ただし、エドワーズ氏自身が認めているとおり、これらのサイトやアドテク企業が犯罪に関わった証拠は見つかっていません。運営者は高度な攻撃者というより、手間をかけないコンテンツファームの手口をなぞる便乗組に近い、というのが同氏の見立てです。

なお、SSPについては「Amazon Ads Certified Supply Exchange (CSE)とは?2026年最新動向とSSP参加の実際」でも取り上げていますので、併せてご覧ください。

名指しされた事業者はどう答えたか

DecryptAdsの報告では、どのSSPがどれだけのサイトを収益化しているかの件数も示されました。AdExchangerの取材に対し、各社の回答は割れています。

DecryptAdsの報告上の件数と各社の回答(2,116サイト中)
事業者 報告上の件数 各社の回答(AdExchangerの取材)
HBAgency
1,631件
報告が挙げた8社のうち直接の取引はMonetix Adsだけ。制裁対象国の事業者とは取引しない
Ezoic
407件
申請サイトの98%超を却下している。AIで作ったかどうかでなく品質で判断すべき
Culture G
34件
回答なし
MonetizeMore
11件
11サイトのどれにも広告を配信していない。在庫の見直しを始めた
出典: AdExchanger(2026年10月20日)が報じたDecryptAdsの報告。件数は報告上の数字で、各社は反論・否定を含む

AdExchangerは公開後に記事を訂正し、HBAgencyと8社の関係はHBAgencyのsellers.jsonではなく、サイト側のads.txtに書かれたアカウントIDから推定したものだと明記しました。中国のMintegralも、名前の挙がったサイトに直接配信した記録はないと答えています。エドワーズ氏も、取引の経路が複雑すぎて特定の1社に正確に責任を帰すのは難しいと認めており、報告ではSSPへの言及を意図的に短くしたそうです。

ads.txtとsellers.jsonは、パブリッシャーとアドテク企業の関係を外から確かめられるほぼ唯一の手段です。一方で、多くのパブリッシャーがほとんど更新せず、誤りも混じります。今回の食い違いは、調査の誤りなのか、審査の抜けなのか。外からは決められないこと自体が、この問題の扱いにくさを示しています。

IVTも視認性も「優秀」なのが厄介

私がこの件でいちばん重く見ているのは、AIスロップが既存の品質指標では「良い在庫」に見えてしまう点です。TAG・ANA・Fiduciaの分析(2026年7月28日公表)は、2026年第1四半期の運用型広告の取引データで、AIスロップとそうでない在庫を比べています。

指標 AIスロップ クリーンな在庫
IVT率(無効トラフィック) 0.05% 0.32%
ビューアビリティ 77.2% 74.9%
TrueCPM(実質CPM) 7.08ドル 6.15ドル
テンプレート型サイトの割合 30.0% 1.2%

出典: TAG/ANA/Fiducia(2026年7月28日)

AIスロップ vs クリーンな在庫:品質指標の比較
IVT率(無効トラフィック)
AIスロップ
0.05%
クリーンな在庫
0.32%
ビューアビリティ
AIスロップ
77.2%
クリーンな在庫
74.9%
TrueCPM(実質CPM)
AIスロップ
7.08ドル
クリーンな在庫
6.15ドル
テンプレート型サイトの割合
AIスロップ
30.0%
クリーンな在庫
1.2%
棒の長さは指標ごとに大きい方を100とした相対値。指標間の長さは比較できません。出典: TAG/ANA/Fiducia(2026年7月28日)

ボット由来の無効トラフィックは少なく、広告はよく見られ、単価はむしろ高い。MFA対策で業界が積み上げてきた物差しで測ると、AIスロップは合格してしまいます。同じ分析では、AIスロップの7割超が「プレミアム」と評価されていました。

では、人間が作ったサイトはAIに負けたのでしょうか。私はそうは見ていません。単価が高いのは、自動入札が不正トラフィックの少なさや視認性の高さに値段をつけているからで、広告主が成果を確かめて高く買った結果とは言えないからです。TAGの分析も、購入や問い合わせといった成果までは比べていません。

負けたのは人間のサイトというより、広告が見えたかどうかしか測らない物差しのほうです。この物差しで予算を配り続ける限り、広告を見せるためだけに作られたサイトが高い点を取り続けます。

規模はオープンウェブの運用型広告費の1.3〜2.4%で、MFAの1.1%と同じ水準です。小さく見えますが、広告主ごとのばらつきは0.11%から13.84%まであり、運の悪い広告主は予算の1割以上を払っていた計算になります。名前の知られていないドメインでは、インプレッションの約27回に1回(3.7%)がスロップでした。

AIスロップ・MFAの規模(広告費・インプレッションに占める割合)
AIスロップ下限(広告費の割合)
1.3%
AIスロップ上限(広告費の割合)
2.4%
MFA(広告費の割合)
1.1%
無名ドメイン(インプレッションの割合)
3.7%
広告主別の最大(該当広告主の広告費の割合)
13.84%
指標ごとに分母が異なります(広告費の割合/インプレッションの割合/広告主ごとの最大値)。棒の長さは5項目中の最大値(13.84%)を100とした相対値。出典: TAG/ANA/Fiducia(2026年7月28日)

なお、生成AIについては「Googleの生成AI検索ガイドを読む:パブリッシャーが今やるべき6つのこと」でも取り上げていますので、併せてご覧ください。

量産のコストも下がっています。DoubleVerifyが2026年3月4日に公開した調査では、200以上のドメインを束ねたネットワーク「AutoBait」が、画像生成AIで1スライドあたり4セント、1ページ2.25ドル未満で記事を作っていました。1ページは最大56スライド、各スライドに8つの広告枠があったといいます。作るのにお金がかからないなら、サイトはこれからも増えます。

Googleの「偽の著者」方針は広告側にも及ぶか

Googleは2026年10月上旬、検索セントラルの「有用で信頼性の高い、ユーザーを第一に考えたコンテンツの作成」を更新し、作り物の著者プロフィールについて次の一文を加えました。

AI生成の顔写真や架空の名前、偽の経歴で人間の専門家が書いたように見せかける行為は欺瞞にあたる。どんな形の欺瞞も、そのページをユーザーとGoogleの自動品質システムの双方にとって信頼できないものにし、低品質なページのシグナルになる。
― Google検索セントラル(筆者訳)

エドワーズ氏は、著者がAIだと明かしていないサイトは「低品質」と公式に分類され、収益化に向かないと見なされるリスクがあると読んでいます。これに対し、あるSSPの関係者は匿名を条件に、この方針はGoogleの検索事業に限った話で、Google広告が示すベストプラクティスとは別に扱うべきだと反論しました。

私はエドワーズ氏の読みに近い立場です。広告の取引基準がすぐに書き換わるとは思いません。それでも、検索からの流入が細れば、こうしたサイトはSNSからの流入と広告枠の詰め込みにいっそう頼るようになり、MFAの特徴がさらに強く出るはずです。検索側の判定は、広告の買い手にとって「先に見えるシグナル」として使えます。

広告主とパブリッシャーがいま見直すこと

TAGの分析が示した推奨と、今回の報道から、日本の運用担当者がすぐ手を付けられることを挙げます。

  1. 検証ベンダーに、AIスロップをどう判定しているかを聞く。IVTとビューアビリティだけで在庫を評価している場合、スロップは素通りします
  2. 無名ドメインと小規模取引所の配信比率を確認する。TAGの分析では、大手取引所のスロップ率が一桁台だったのに対し、小規模やネイティブ形式の取引所は4〜8%でした
  3. 配信先レポートでテンプレート型の量産サイトを探し、除外リストに入れる。レシピ、子育て、旅行、髪型、家計、ハウツーが典型的なジャンルです
  4. パブリッシャーは、AIを使った制作工程と著者情報を正直に開示する。TAGの定義でも、AIを使ったこと自体はスロップの条件ではありません。信頼を失うのは偽の著者を立てたときで、検索と広告の両方に響きます

まとめ

AIスロップはMFAと構造が同じで、規模もMFAと並ぶ水準に達しています。厄介なのは、無効トラフィックが少なく視認性も高いため、これまでの物差しでは「優良在庫」に見える点です。DecryptAdsの調査をめぐって各社の説明が食い違ったように、サプライチェーンのどこで止めるべきかも、まだはっきりしません。広告主の側では、配信先のドメインを自分の目で確かめる手間が、しばらく一番確実な対策になると私は考えています。

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