ページビュー(PV)を追いかける時代は、終わりに近づいているのかもしれません。
2026年9月16日、英国の大手新聞グループ Reach が編集部門で約220人を削減し、3つのローカルブランドを閉鎖する方針を社内に伝えたと、英業界誌 Press Gazette が報じました。同じ週、米 Digiday は The New York Times(NYT)がAI企業とライセンス契約を結ぶときの判断基準を伝え、AIの回答がどのサイトを引用しているかという調査も掲載しています。
3つのニュースに共通するのは、AI検索が読者とパブリッシャーのあいだに入り込んだという事実です。
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目次
AI検索によるトラフィック減少とは、GoogleのAI Overviewsや対話型AIが検索結果の画面で答えを示してしまうため、ユーザーが元記事のサイトを訪れなくなる現象を指します。検索からの流入に頼ってきたパブリッシャーほど影響が大きく、PVを前提にした広告収益のモデルが揺らいでいます。
Digiday は2026年9月24日の Media Briefing で、状況を次のようにまとめています。検索トラフィックが目減りし、AIのアンサーエンジンが検索クエリそのものを吸い取っていくなか、パブリッシャーはすでに抱えている読者からより多くの価値を引き出す方向に賭けている、と。
Google経由の流入がどれだけ減ってきたかは、当ブログの「AI検索がパブリッシャーの生命線を断つ理由」で詳しく解説しています。
Reach は Daily Mirror や Daily Express などを発行する英国の新聞グループです。Press Gazette によると、今回の再編の中身は次のとおりです。
新設する職について、最高コンテンツ責任者(CCO)の David Higgerson 氏は社内メモで、デジタル収益の成長、なかでも購読と長尺動画を伸ばすための職だと説明しています。
We are in the middle of a mammoth shift in how audiences want content and journalism.
(読者がコンテンツとジャーナリズムに求めるものが、いま大きく変わりつつある)
— David Higgerson, Reach(Press Gazette より)
同じメモには、ニュースルームでは記事の本数よりも独自の報道と特色あるブランドに重きを置く、という方針も書かれていました。Press Gazette は背景として、Google Discover のアルゴリズム変更と AI Overviews の登場によってGoogleからの流入が減ったことを挙げています。
人員の縮小は今回が初めてではありません。Reach の制作・編集職は2022年の3,369人から2025年末には2,494人になりました。22ブランドをまたいだデジタル有料購読者は5万人を超えています。PVを増やすための大量生産から、購読してくれる読者との関係づくりへ。今回の再編は、その転換をはっきり示すものです。
AIの回答は、どのサイトを情報源として示しているのでしょうか。Digiday の2026年9月23日の記事によると、Meltwater のデータでは、2026年8月にClaude、ChatGPT、Copilot、Google AI Mode、Google AI Overviews、Gemini、Perplexity、Grok の8つのAIプラットフォームすべてで、最も多く引用されたのは YouTube でした。
| 調査元 | 対象・期間 | 結果 |
|---|---|---|
| Meltwater | 8つのAIプラットフォーム、2026年8月 | YouTube が最多の引用元 |
| Tinuiti(Profound と共同) | 2026年1月〜4月 | YouTube の引用シェアは Google AI Mode で4倍超、AI Overviews で2倍超 |
| OtterlyAI | YouTube 引用の内訳 | 長尺動画が94%、Shorts は5.7%。10〜20分の動画が32.1% |
| Scrunch | 2026年5月〜7月 | YouTube の引用率は1カ月で18.4%から10.5%へ下がる(約43%減) |
注目したいのは最後の行です。AIに一度引用されても、その状態は長く続きません。Tinuiti の Crystal Duncan 氏(EVP)は、Gemini の回答エンジンは動画そのものだけでなく、その文脈や制作に関わるあらゆる情報まで読み込んでいると話しています。
テキスト記事を中心にしてきたパブリッシャーにとって、この結果は気がかりです。AIの回答で取り上げられる場所が、動画のほうへ移りつつあるからです。Reach が新設する職の中に長尺動画が入っているのも、この流れと重なって見えます。
トラフィックが減るなら、AI企業から対価を受け取ればよい。そう単純な話でないことは、NYT のケースを見るとわかります。
Digiday によると、NYT の戦略パートナーシップ担当VP、Adam Greenberg 氏は Digiday Publishing Summit で、AI企業とのライセンス契約を評価するときの3つの原則を示しました。
NYT は購読で成り立つ事業なので、読者との直接の関係を損なう契約には応じません。Greenberg 氏は、Amazon との契約がこの3原則を満たす例だと語っています。
It can’t just be this one-time lump sum, and then there’s no engagement, there’s no partnership beyond revenue.
(一度きりの一括払いで終わり、それ以上の関与も協力もない、という形ではいけない)
— Adam Greenberg, The New York Times(Digiday より)
一方で Greenberg 氏は、AIの学習や推論に使うコンテンツをリアルタイムで値付けする市場ができるまでには何年もかかる、という見方も示しています。ライセンス収入が、減ったトラフィックの分をすぐに埋めてくれるわけではありません。
| Reach | NYT | AI検索の引用データ | |
|---|---|---|---|
| 起きていること | Googleからの流入減で編集職を削減 | AI企業と選んでライセンス契約 | 引用元がYouTube・長尺動画に集中 |
| 打ち手 | 評価指標をPVから閲読時間へ | 3原則で契約相手を選ぶ | 動画の構成を引用されやすくする |
| 守ろうとしているもの | 購読者との関係 | 読者との直接の関係 | AIの回答の中で目に入ること |
筆者は、中でも Reach の指標変更に注目しています。AIに引用されるための最適化は、Scrunch のデータが示すとおり効果がすぐに薄れます。ライセンス収入は NYT ほどの交渉力がないと手に入りにくい。多くのパブリッシャーにとって、自分でコントロールできるのは結局、すでに来てくれている読者との関係です。
ただし、その方法として注目されるパーソナライズも、まだ決め手にはなっていません。Digiday によると、マイアミで開かれた Digiday Publishing Summit の非公開ミーティングでは、パブリッシャー幹部の意見が2つに割れました。自動でパーソナライズしたニュースレターで成果を感じている側と、人の編集をアルゴリズムに置き換えても何も変わらなかった側です。
日本のパブリッシャーにとっても人ごとではありません。まず自社の検索流入のうち、AI Overviews が表示される検索クエリがどれくらいを占めているかを確かめる。そのうえで、PVとは別に、読者が実際に読んだ時間を測る指標を持っておく。Reach がたどり着いた結論は、そこから始まっています。