「AIエージェントで広告運用を自動化したいが、APIの統合が複雑すぎる」。そんな課題を抱える広告テック開発者は多いのではないでしょうか。
2026年2月2日、AmazonはIAB Annual Leadership Meeting(IAB ALM)において、Amazon Ads MCPサーバー(MCP Server)のオープンベータ開始を発表しました。Model Context Protocol(MCP)というオープンスタンダードを基盤に、Claude、ChatGPT、Geminiといった主要AIプラットフォームから、単一のインテグレーションでAmazon Ads APIの全機能にアクセスできる仕組みです。
Amazon Ads MCPサーバーのニュース概要については、当ブログの「Amazon Ads MCPサーバーがオープンベータ開始!AIエージェント連携で広告運用はどう変わるのか」で詳しく解説しています。
本記事では、ニュース記事ではカバーしきれなかった技術仕様に踏み込み、以下のポイントを解説します。
目次
Model Context Protocol(MCP)とは、AIシステムが外部ツールやデータソースと通信するためのオープンスタンダードです。2024年11月にAnthropicが発表し、2025年にはLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)に寄贈されました。OpenAI、Google、Microsoft、AWS、Cloudflareといった主要企業が共同で支援しています。
MCPの核心的な価値は、AIエージェントと外部サービス間の通信を標準化することにあります。これまで各サービスごとに個別のAPI統合が必要だったものを、共通のプロトコルで一本化します。
| MCPが解決する課題:API統合の複雑性 | ||||||
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| 出典:各社公式ドキュメントおよびAdweek報道を基に筆者作成 |
Amazon Ads担当VP Paula Despins氏は、MCPの意義について次のように説明しています。
「エージェントは現在、あるAPIが何をするのか、どう動作するのかを理解する必要がある。それがエージェントの推論に大きな負荷を生んでいる」
MCPはこの「推論オーバーヘッド」(=AIが”どのAPIをどう呼べばいいか”を考えるために費やす無駄な処理コスト)を解消するためのプロトコルです。
Amazon Ads MCPサーバーは、3つの層が縦に積み重なった構造になっています。イメージとしては、「ユーザーが話しかける → 通訳が仲介する → 実際の作業者が動く」という流れです。
| Amazon Ads MCPサーバー 3層アーキテクチャ | |||||||
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| 出典:Amazon Ads公式ドキュメント、PPC Land報道を基に筆者作成 |
たとえば、ユーザーがClaude上で「先月のSP広告のパフォーマンスを見せて」と話しかけると、以下のように処理が流れます。
ポイントは、開発者がLayer 3(MCPサーバー)の中身を意識する必要がないことです。MCP Clientさえ接続すれば、あとはMCPサーバーが適切なAPIを自動的に選択・実行してくれます。
MCPサーバーの仕組みを理解するうえで避けて通れないのが、Domain Model Standardという概念です。
ひとことで言えば、Domain Model Standardとは「Amazon Ads APIの品質基準」です。Amazon Ads APIには長年の開発で蓄積された多数のAPIバージョンが存在しますが、その中には古い仕様のまま残っているものや、互換性に問題があるものも含まれています。
Domain Model Standardは、これらのAPIの中から「最新かつ正しい仕様に準拠しているもの」だけを選別するフィルターの役割を果たします。
レストランのメニューに例えると、こうなります。
つまり、MCPサーバーではAmazon Ads APIのすべてが使えるわけではなく、Domain Model Standardに合格したAPIだけが利用可能です。ただし、この基準を満たしたAPIはSP・SB・SDの各Sponsored Ads広告に加え、Amazon DSP(プログラマティック広告)やAMC(Amazon Marketing Cloud)も含まれています。「一部の広告プロダクトしか使えない」という意味ではなく、あくまで各プロダクト内のAPIバージョンの品質フィルターです。
これは制約のように感じるかもしれませんが、実際には以下のメリットがあります。
開発者にとっては、「どのAPIバージョンを使うべきか」という判断が不要になるため、むしろ開発効率が上がる設計と言えます。
MCPでは、MCPサーバーが外部に公開する機能のことを「プリミティブ(Primitives)」と呼びます。日本語で言えば「基本部品」です。Amazon Ads MCPサーバーでは、3種類のプリミティブをそれぞれ以下のようにあてはめ、定義しています。
| MCPプリミティブの3分類 | |||
| 種類 | 定義 | ステータス | 例 |
| Tools | エージェントに公開される関数。説明、入力プロパティ、戻り値を持つ | 利用可能 | campaign_management-create_sp_campaign |
| Resources | コンテキスト情報の提供(ファイル内容、DBレコード、APIレスポンス等) | 今後対応 | キャンペーン設定データ、市場情報 |
| Prompts | LLMとの対話を構造化する再利用可能なテンプレート | 今後対応 | キャンペーン作成プロンプト |
現在利用可能なToolsは、APIを1対1でそのまま呼び出すだけの薄い仲介役(いわゆるAPIラッパー)ではありません。
料理に例えると、従来のAPIは「包丁」「まな板」「フライパン」といった個別の調理器具を渡されるようなもので、何をどの順番で使うかは自分で考える必要がありました。一方、MCP Toolsは「レシピ」です。「この料理を作りたい」と伝えれば、必要な調理器具を正しい順番で自動的に使ってくれます。
技術的には、これをワークフローオーケストレーション(複数の処理を1つの流れとして自動実行する仕組み)と呼びます。複数のAPI呼び出しが1つのToolとしてまとめられています。
具体例: Sponsored Productsキャンペーンの作成
Amazon Ads MCPサーバーのツールは、4つの機能グループに分類されています。
ツール名は以下のフォーマットに従います。
<tool_group>-<tool_name>例: account_management-create_advertiser_account
以下の図は、4つのツールグループと、各グループに含まれる主要なツール(エンドポイント)を示しています。
| Amazon Ads MCPサーバー ツールグループと主要ツール | |
| account_management(アカウント管理) create_advertiser_accountget_profilesupdate_account_settings例: 「すべての広告アカウントを表示して」 | billing(請求管理) get_invoicesget_payment_detailsget_billing_notifications例: 「最近の請求書を表示して」 |
| campaign_management(キャンペーン管理) create_sp_campaign(SP広告作成)create_sb_campaign(SB広告作成)create_sd_campaign(SD広告作成)create_dsp_campaign(DSP広告作成)update_campaign_budget(予算変更)move_keywords_across_campaignsexpand_campaign_to_country例: 「予算を$500に増額して」 | reporting(レポーティング) cp_get_campaign_performancesp_get_search_term_reportgenerate_custom_reportget_performance_summary例: 「10月のパフォーマンスを見せて」 |
【ツール名のプレフィックス】sp_ = Sponsored Products | sb_ = Sponsored Brands | sd_ = Sponsored Display | dsp_ = Amazon DSP | cp_ = Campaign Performance | amc_ = Amazon Marketing Cloud | |
| ※ 上記は公開情報から確認できる主要ツールの例です。オープンベータでは追加ツールが含まれる可能性があります。 | |
上記のうち campaign_management グループが最もツール数が多く、SP(Sponsored Products)・SB(Sponsored Brands)・SD(Sponsored Display)に加え、Amazon DSP(プログラマティック広告)にも対応するツールが含まれています。つまり、MCPサーバーを通じてAmazon広告の主要プロダクトをほぼ網羅的に操作できる設計です。
MCPでのアカウント識別は、従来のAmazon Ads APIとは異なるパターンを採用しています。
| パラメータ | 用途 | 指定方法 |
profileId | Sponsored Adsアカウント | リクエストボディ内 |
managerAccountId | マネージャーアカウント | リクエストボディ内 |
advertiserAccountId | DSP広告主 / グローバルアカウントID / AMCインスタンス | リクエストボディ内 |
従来のAPIではAmazon-Advertising-API-Scopeヘッダーで指定していたプロファイルIDを、MCPサーバーではリクエストボディ内のパラメータとして渡す設計になっています。これはMCPプロトコルの標準に沿った設計であり、ツールの入力プロパティとして自然に扱えるようにするためです。
Amazon Ads MCPサーバーへの全リクエストには、以下の2つのヘッダーが必要です。
| ヘッダー | 値 | 説明 |
Amazon-Ads-ClientId | クライアントID | Login with Amazonアプリケーションの識別子 |
Authorization | Bearer <access_token> | ユーザー権限を表すアクセストークン |
認証には2つのアプローチがあります。
MCPサーバーは3つのリージョンで運用されています。
| Amazon Ads MCPサーバー リージョン別エンドポイント | ||
| リージョン | 略称 | エンドポイントURL |
| North America | na | https://advertising-ai.amazon.com/mcp |
| Europe | eu | https://advertising-ai-eu.amazon.com/mcp |
| Far East | fe | https://advertising-ai-fe.amazon.com/mcp |
| 出典:PPC Land / Amazon Ads公式ドキュメント | ||
MCPサーバーにはリージョンをデフォルト値として設定するツールと、動的に切り替えるツールが含まれており、サーバーを再起動せずにリージョン間を移動できます。
MCP統合の最大の違いは、個別のAPI呼び出しの組み合わせではなく、ワークフロー単位でのオーケストレーションにあります。
| 従来のAPI統合 vs MCP統合 | |||||||
| 従来のAPI統合
各APIを個別理解 → 手動で組み合わせ 推論オーバーヘッド大 | MCP統合 MCPサーバー
自動バージョン管理 推論オーバーヘッド最小 | ||||||
| 出典:Adweek、Digiday報道を基に筆者作成 | |||||||
| 比較項目 | 従来のAPI統合 | MCP統合 |
|---|---|---|
| 統合方式 | サービスごとに個別統合 | 単一プロトコルで統合 |
| API選択 | 開発者が適切なAPIバージョンを判断 | Domain Model Standard準拠のAPIのみ公開 |
| ワークフロー | 複数APIを手動で組み合わせ | 事前構築されたToolsで一括実行 |
| 自動更新 | APIバージョン変更時にコード修正が必要 | ベータプログラム経由で新機能が自動追加 |
| 対応プラットフォーム | 各プラットフォーム用に個別実装 | Claude/ChatGPT/Gemini等すべて共通 |
Amazon Adsが公開しているプレビルトToolsには、以下のようなものがあります。
Amazon Ads MCPサーバーは以下のAIプラットフォームとの接続をサポートしています。
| プラットフォーム | 提供元 | 接続方法 |
|---|---|---|
| Claude | Anthropic | MCP Client統合 |
| ChatGPT | OpenAI | MCP Client統合 |
| Gemini | MCP Client統合 | |
| Amazon Q | AWS | ネイティブ統合 |
| Amazon Bedrock | AWS | ネイティブ統合 |
| Amazon AgentCore | AWS | ネイティブ統合 |
| カスタムエージェント | 各社 | MCP SDK利用 |
また、サードパーティによるオープンソース実装も存在します。Openbridge Amazon Ads MCP SDK(Docker)は、マルチリージョン対応、キャンペーン管理、レポーティング、DSP、AMCワークフローを包括的にカバーするOSS実装として利用可能です。(オープンソースのご利用は自己責任で)
MCPサーバーにはreadOnlyHintアノテーションによるツールフィルタリング機能があります。管理者はこのアノテーションを使って、書き込み操作を防止し、読み取り専用モードでエージェントを運用できます。
また、ツールグループ名による正規表現パターンマッチングで、エージェントが利用できるツールを効率的に絞り込むことが可能です。
| Amazon Ads MCPサーバー ロードマップ | |
| 2025年11月 | ★ unBoxed 2025でクローズドベータ発表 ★ Ads Agent発表(AIキャンペーン管理エージェント) |
| 2026年2月 | ★ IAB ALMでオープンベータ開始 ★ Toolsプリミティブ提供開始(4ツールグループ) |
| 2026年中 | ◆ Resourcesプリミティブ追加(コンテキスト情報の提供) ◆ Promptsプリミティブ追加(再利用可能テンプレート) |
| 2026年以降 | ○ マルチメディア対応(画像・動画・音声) ○ オープンガバナンスによる標準策定 |
| 凡例: ★確定 ◆高確率 ○予測 | |
Adweek、Digiday、AdExchangerの報道を横断すると、Amazon Ads MCPサーバーの位置づけについて興味深い見方が浮かび上がります。
Digidayは、Amazonの動きを「エージェンティック広告のルールを誰が決めるかの競争」の一環と位置づけています。IAB Tech Labが推進するAdvertising Context Protocol(AdCP)がクロスプラットフォームの中立標準を目指すのに対し、Amazonのアプローチは自社エコシステム内の標準化に焦点を当てています。
一方、AdExchangerは、MCPサーバーが「既存のAPI統合コストを大幅に削減する可能性」に注目しています。現在、広告テックの現場では各プラットフォームごとにAPI統合を維持する負担が大きく、MCP標準化はこのコストを構造的に解消する手段と考えられます。
広告テックの開発者にとって、MCPサーバーはAPI統合の複雑性を構造的に解消する重要な技術基盤です。オープンベータ期間中に接続テストを行い、自社のワークフローへの適用可能性を早期に検証することを推奨します。
Amazon Ads MCPサーバーのニュース概要については、当ブログの「Amazon Ads MCPサーバーがオープンベータ開始!AIエージェント連携で広告運用はどう変わるのか」で詳しく解説しています。ビジネスインパクトや広告運用の変化について知りたい方は、併せてご覧ください。
本記事は以下のニュースソースを参考に作成しました。