AAMP 2.0リリース:IABのバイヤー・セラーAIが実取引対応へ、AdCPとの競争の現在地

2026年3月、当サイトはIABのSeller AgentをAdCP Sales Agentと比較し、こう結論した。「今すぐ試すならAdCP。IABは年後半の再評価で十分」と。

あれから約7週間。IAB Tech Labは「AAMP 2.0」をリリースし、バイヤーとセラー両方の「取引対応SDK」を公開した。再評価の時期は、想定より早くやってきた。


「3月の欠陥」を越えたか

以前の比較記事で整理した通り、2026年3月時点のIAB Seller Agentには深刻な問題があった。在庫チェックがハードコードされたプレースホルダーを参照しており、実際の在庫を見ていない。オーディエンスバリデーションで例外が発生するとディールをサイレントに承認してしまう。外部アラート機構がなく、エラーはリクエスト終了時に消える。

この3点が解消されていれば、評価は変わる。

AAMP 2.0のSeller Agent SDKはOpenDirect 2.1とAdCOMをコアに組み込み、規格準拠のアーキテクチャに再構成した。旧SDKで「恣意的でぎこちない」と評されたプロトタイプ的な実装から、仕様書通りの実装へ。ただし、実際のコードが本番水準を満たすかは、独立した検証が改めて必要だ。

Seller SDKの主要モジュールは以下の通りだ。

モジュール 役割
Dynamic Media Kit Management アクセス権限を階層化した在庫管理
Negotiation and Pricing Agent コンテキストとリアルタイムデータに基づく動的価格設定
State Engine ディールのワークフロー管理と監査ログ
Integration Connectors Google Ad Manager / FreeWheel / PubMatic / Index Exchange / Magniteに対応

3月時点には「GAMのみ」だった広告サーバー統合が、AdCPと同レベルの対応幅に拡張された点は評価できる。State Engineによる監査ログは、以前欠けていた「外部アラートなし」問題に対する直接の回答でもある。


バイヤーAgent SDK 2.0:3層でキャンペーンを自律実行

Buyer Agent SDK 2.0は、メディアプランナーの業務をAIエージェントの3層構造に分解する。

  • Orchestrationレイヤー:全体の意思決定と調整を担う司令塔
  • Channel Specialistsレイヤー:ディスプレイ、動画などチャネル別の専門エージェント
  • Functional Agentsレイヤー:予算配分、在庫リサーチ、ディール実行などの個別機能

このSDKが対応するAPIプロトコルとして注目したいのが、MCP(AnthropicのModel Context Protocol)とA2A(GoogleのAgent2Agent)の両方をサポートした点だ。特定のAIベンダーのエコシステムに閉じず、既存のOpenRTBインフラとも接続を維持する。IABらしい「どのベンダーとも対立しない」設計思想が、ここにも表れている。

Deals Libraryがディールのライフサイクル全体を管理し、Agent Registryと統合したDiscovery機能でセラーを発見、キャンペーンのセットアップから入稿まで自律実行する。AAMPのAgent Registryについては、以前の記事で詳しく解説している。


AdCPとの違いは、今も変わらない

AAMP 2.0で大きく進歩したのは事実だが、設計哲学の根本的な差はそのままだ。

比較軸 AdCP AAMP 2.0
設計思想 ゼロから再設計(エージェントネイティブ) 既存標準の拡張(OpenRTB / AdCOM / OpenDirect)
在庫発見 独立サーバー型(バイヤーがP2P接続) マーケットプレイス型(Agent Registry経由)
開発経緯 Prebid.org管理、約8ヶ月の蓄積 IAB Tech Lab主導、2026年2月〜

Adnami CPOのThomas Fromが表現した「革命か進化か」という対立は、2.0を経ても解消されていない。IAB Tech Lab CEOのAnthony KatsurがAdCPを「deeply flawed」と批判した時から、両者の哲学的立場は一貫している。

ただし、技術的な補完関係の可能性は残る。AdCPが「エージェントが何を意図しているか」の表現層を担い、AAMPのARTFが「その意図を安全かつ高速に実行する」インフラ層を担うという整理だ。ARTFの設計思想については別記事に詳しい。

標準争いの決着よりも先に、実用的な統合が進む展開は十分あり得る。


Kochavaが先陣を切った

思想的な論争とは別に、AAMP 2.0は早くも実装事例を持つ。

2026年3月24日、KochavaはIABのAAMP Buyer Agent SDKをStationOneプラットフォームにオープンソースとして組み込んだ。StationOneは企業が複数のAIモデルと広告テックツールをAPI連携で操作できるデスクトップ型ワークスペースだ。

Kochava創業者兼CEOのCharles Manningは「透明性・拡張性・責任あるAI採用へのコミットメント」を強調した。IAB Tech Lab CEOのAnthony Katsurは「オープンな標準でのAI駆動ワークフローの実現。オープンソース化で業界全体の参入の扉を開く」と述べている。

55%のメディアバイヤーが「データはあるが実行可能なインサイトへの変換に苦労している」(Digiday)という状況において、オープンソースで試せる実装例の登場は意味がある。


「様子見」から「試す段階」へ

3月時点の「IABは年後半の再評価で十分」という結論は、AAMP 2.0のリリースによって前倒しで検証する根拠ができた。

バイヤーとセラーのSDKが取引対応となり、GoogleやPubMaticを含む主要広告サーバーとのコネクタが整備され、Kochavaという先行実装例が出た。GitHubリポジトリは公開状態で、今日から試せる水準にある。

一方で、AdCPが約8ヶ月の開発蓄積を持ち、Prebid.orgのガバナンス下でドキュメントと統合対象を充実させ続けていることは変わらない。AAMP 3.0が開発中であることも、IABのロードマップが完成形ではないことを示している。

どちらの標準が主流になるかより、自社のプログラマティック基盤がエージェント対応可能な構造になっているかを点検することが、今取れる最も価値ある一手だ。次の標準争いの勝者がどちらになるにせよ、OpenDirect 2.1やAdCOMに準拠した基盤であれば対応コストは低い。


まとめ

  • AAMP 2.0のSeller SDK:OpenDirect 2.1とAdCOMを組み込み、主要広告サーバー対応を拡張。3月の深刻な欠陥への直接的な回答が設計に反映された
  • Buyer SDK:3層アーキテクチャでキャンペーンを自律実行。MCP・A2A対応でベンダー中立を維持
  • AdCPとの比較:設計哲学の差は変わらず。技術的補完関係の可能性は残る
  • Kochavaの実装:AAMP Buyer Agent SDKを組み込んだStationOneをオープンソースで公開。業界初の実装事例

「今すぐ試すならAdCP。IABは様子見」という評価軸は、AAMP 2.0で崩れた。どちらを試すかの議論は、いよいよ実運用の比較として行える段階に入った。


参考記事

本記事は以下のソースを参考に作成しました。

主要ソース

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