AIに対する世間の目は、いま明らかに冷たい。卒業式でAIへの言及にブーイングが起き、世論調査では「AIはむしろ悪い」と答える人が「むしろ良い」と答える人の倍以上いる。
そんな逆風のなか、Googleは検索の表玄関を25年で最大規模に作り替えた。2026年5月22日に公開されたNYTのポッドキャスト「Hard Fork」で、CEOのスンダー・ピチャイがその真意を語っている。検索と広告のビジネスは、この転換を乗り越えられるのか。
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目次
「AIはむしろ悪い」35%という逆風
ピチャイのインタビューの背景にあるのが、AIへの強まる不信だ。
NYTとSiena大学の世論調査では、AIを「mostly bad(むしろ悪い)」とみる回答が35%にのぼり、「mostly good(むしろ良い)」の16%を大きく上回った。各地の大学の卒業式では、登壇者がAIに触れるたびに学生からブーイングが飛ぶ。ピチャイ自身、来月にスタンフォード大学で卒業式のスピーチを控えている。
彼はこの不安を否定しない。
AIは人類が手がける最も重大なテクノロジーとみなされている。とてつもない速さで進歩していて、人間はそれだけの変化を処理できるようには進化していない。人々が将来に不安を抱くのは当然だ。
不安の中心にあるのは雇用だろう。仕事が大きく変わり、一部は消える。そうした予測に対し、ピチャイは「自分はもっと楽観的だ」としながらも、「社会として人々が不安を抱かないほうが驚きだ」と認めている。逃げのない物言いだ。
| AIに対する世論の評価(米国) | ||
| 「むしろ悪い」 | 35% | |
| 「むしろ良い」 | 16% | |
| 出典: NYT / Siena College 世論調査(2026年5月、The New York Times / Hard Fork 2026-05-22 より) | ||
25年で最大の検索刷新、AI Modeで10本の青いリンクは消えるのか
今回いちばん注目を集めたのが、検索バーとトップページの刷新だった。番組で「25年で最大の変更」と評された規模だ。
焦点は、従来型の検索結果、いわゆる10本の青いリンクが消えるのかという点にある。AI Modeをデフォルトにして、リンク一覧を一掃するのか。司会のケビン・ルースがそう問うと、ピチャイははっきり否定した。
ユーザーをこの旅に連れていくことが大切だ。先回りしすぎないようにしている。情報源とリンクは、常にその一部として残り続ける。
ここに広告主が気にすべき論点が潜んでいる。「全面AI Mode」へ一気に振り切るのではなく、段階的に移行する。ユーザーは検索に速さを求め、ウェブとつながりたがっているからだ。一方で、ユーザーが刷新に好意的に反応していることは長期指標に明確に表れている、ともピチャイは述べている。リンクは残るが、主役の座は静かに移りつつある。
| 従来の検索 vs Google AI Mode | ||
| 評価軸 | 従来の検索 (10本の青いリンク) |
Google AI Mode |
| 回答形式 | リンク一覧を表示 ユーザーが自分で読む |
AIが直接回答を生成 情報源リンクも併記 |
| 情報源の扱い | リンクが主役 | 回答に引用として組み込まれる |
| 広告の置き場 | 検索結果ページ上の枠 | AIの回答・エージェント行動内へ (移行途上) |
| SEOの評価軸 | 検索順位(リンクのクリック数) | 回答内への引用可視性 (新たな評価軸) |
| 移行方針 | — | 段階的移行 一気に切り替えない(ピチャイ方針) |
| 出典: NYT / Hard Fork「Sundar Pichai Understands Why People Are Anxious About A.I.」(2026-05-22)をもとに筆者整理 | ||
広告ビジネスは崩れるのか
マーケターにとっての本丸はここだ。AI Modeやエージェントが質問に直接答えてしまえば、ユーザーは10本のリンクをクリックしない。検索広告という屋台骨はどうなるのか。
ケイシー・ニュートンが、自分はこの1年ほぼ従来型の検索をしていないと水を向けると、ピチャイの答えは落ち着いていた。
AI Mode、エージェントモードでは、10年前にできたことよりずっと多くをユーザーのためにやってくれる。経済的価値とは、つねにユーザーに与える総価値の関数だ。サブスクと広告の組み合わせで、適切なモデルは存在し続ける。アダム・スミスの法則は、この新しい世界でも変わらない。
提供価値が増えれば、それを収益化する手段は形を変えて残る。サブスクリプションと広告の二本立てで設計する、という読みだ。筆者の見立てでは、これは「検索広告がそのまま安泰」という話ではない。クリックを前提にした枠売りから、AIの回答や自律エージェントの行動のなかに価値を埋め込む形へ、広告の置き場所そのものが移っていく予兆と読むべきだろう。
Gemini 3.5 FlashとエージェントSparkが示す「価値での説得」
ピチャイの戦略は一貫している。不安は議論で消えない。役に立つ製品を見せ続けることでしか信頼は戻らない、という立場だ。
Google I/Oでは高速で低価格な新モデルGemini 3.5 Flashを投入した。発表直後は価格や品質、利用制限への不満も出たが、ピチャイは「ポストトレーニングで早期に対処できる」と応じている。コーディング領域ではAnthropicのClaude CodeやOpenAIに遅れていると率直に認めつつ、社内開発ツールAntigravity 2.0のトークン使用量が「毎週倍増している」と手応えを語った。
消費者向けには、今夏に自律エージェントSparkを投入する。ピチャイ自身は、予定を見渡してカレンダーをカテゴリ別に色分けさせる使い方を披露した。ただ信頼の獲得は段階を踏むという。
自動運転車の後部座席に人を座らせるまで、私たちは段階を踏んだ。エージェントも、予期せぬことが起きれば人は離れていく。
セキュリティ面で「これらのシステムはハッキングされうる」とも釘を刺した。フロンティアを無理に先取りしない、という慎重さがにじむ。
分析・考察:広告主とマーケターは何を見るべきか
このインタビューから、マーケティングに関わる読者が引き出せる示唆は3つある。
1. 検索の「入口」が二層化する。 10本の青いリンクは当面残るが、AI Modeが上位の体験になる。コンテンツがAIの回答に引用される設計、いわば回答内での可視性が、従来のSEO順位と並ぶ評価軸になっていく。リンクのクリック数だけを成果指標に据えていると、価値の移動を見落とす。
2. 収益モデルは「サブスク+広告」の二本立てを前提に動く。 ピチャイがアダム・スミスを持ち出したのは、広告がなくなるという観測へのけん制だ。広告主の視点では、検索結果ページの枠だけでなく、エージェントが代行する購買や予約のフローのどこに自社が登場できるかを、いまから考える価値がある。
3. AI不安は事業リスクである。 世論の35%が「むしろ悪い」と答える状況は、AI活用をうたう広告やサービスのトーンに直結する。「AIで効率化」を前面に出すほど反発を招きかねない。ユーザーにとっての具体的な便益を語れるかどうかが、ブランドの信頼を左右する。
変化の速さについて、ピチャイは「この分野では30日から60日が5年に見える」と表現した。半年単位の様子見が、すでに出遅れになりうる速度だ。
まとめ
- 検索は段階移行:AI Modeが主役へ移りつつあるが、リンクと情報源は残る。25年で最大の刷新でも、ピチャイは一気に振り切らない。
- 広告は形を変えて残る:「アダム・スミスの法則は変わらない」。サブスクと広告の二本立てで、収益化の置き場所がAIの回答やエージェントの行動側へ移る。
- 不安への答えは「価値の提示」:世論の逆風に対し、Googleは規制対話に応じつつ、役に立つ製品で信頼を取り戻す路線を選んだ。
広告主が次に確かめるべきは、自社のコンテンツや商品がAIの回答とエージェントの行動のなかに、どう登場できるか。検索順位の次に来る評価軸は、もう動き始めている。
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参考記事
本記事は以下の一次ソースをもとに作成しました。
主要ソース
- Sundar Pichai Understands Why People Are Anxious About A.I. – The New York Times / Hard Fork(Kevin Roose, Casey Newton, Whitney Jones、2026年5月22日)